なぜ腰痛になるの?
まず腰痛という言葉について知らなければいけません。腰痛には様々な種類があります。
筋筋膜性腰痛・腰椎椎間板ヘルニア・脊柱菅狭窄症・腰椎分離症・すべり症etc…
これらを総称して腰痛と呼ばれます。腰痛の原因は、急な動作をした際に筋肉が傷ついたり、腰周辺の筋肉が疲労して凝り固まってしまっていたり、
長時間背骨に負担がかかったり、加齢などにより骨が変形してしまったり、病気であったりなど挙げられますが、
痛みが発生する詳しい原因はわかっていない場合が多いのです。
腰痛で苦しみ、悩んでいる人は大変多く見られます。一生のうちに腰痛を体験する人は実に8割近いという報告があるくらいです。
多くの人々を悩ませる腰痛ですが、腰痛を発生するようになった理由は人間が二足歩行になったことが原因といわれています。
人間には高い知能があり、そのため他の動物と比較すると脳の重量が大きくなりました。
その結果、頭部の重みを頚部のみで支える四足歩行から頭部の重みを全身で支える二足歩行になったといわれています。
また二足歩行になったおかげで両手が自由になった事も人類が発展してきた理由の一つと考えられます。
二足歩行になった人間の腰部は体の中心となり、あらゆる動きや力を支える基盤となりました。その結果、腰部は多大な負荷を受けるようになりました。
しかし、腰部は背骨1本のみ(正確には少し違うのですが…)でその負荷を受けとめています。
そうなると必然的に背骨に付着する靭帯や椎間板やその他の軟部組織、筋肉への負担が強くなってしまうのです。
その負荷が積み重なることにより痛みを発生すると考えられる腰痛が大半を占めています
(non-specific low back pain : 非特異性腰痛症)。
さらには、無理な姿勢での作業の継続や負担が大きい姿勢で強い力を急に出そうとすれば当然腰への負荷は一気に高まり、
それまでの負担と相俟ってぎっくり腰を引き起こす可能性も高くなってしまいます。
腰痛と老化
腰痛の発生は年配者に多く、老化現象の一つと考えている人は少なくないそうです。しかし、腰痛は老化現象ではないとも言われています。
これは腰痛患者の年代を調べた研究で、少し古くなってしまうのですが1979年のデータです。
腰痛患者は20代〜40代におおいことが分かります。(整形外科MOOK. 1979. 山口ら)
腰痛の初発年齢をみても20代でピークを迎えており、右肩下がりに減少しています。
(整形外科MOOK. 1979. 山口ら)
このデータは古いものですが、腰痛を持病としているのは、高齢者よりもいわゆる青年と呼ばれるような年代の方に多いようです。
人口の分布の仕方も関係するのではないかとも考えられすが、この研究では腰痛は老化現象ではないと示唆していました。
しかし、実際に腰椎(腰にある背骨部分)は年齢が高くなるにつれて変化していきます(退行変化)。
同時に腰椎の間にある椎間板という軟部組織も高齢になるにつれて変化していくこともわかっています。
次のデータを見てみると分かります。この研究は腰痛をもたない健常者67名を対象にした調査です(Boden SD et al. 1990)。
結果を見ると、椎間板の変形はやはり年齢と共に出現しているように見えます。
しかし、腰痛の初発年齢のデータをみると、椎間板の変形が増える年代よりも前から腰痛をもっている人が多くいるようです。
腰痛と椎間板
となると当然、椎間板の変形具合と腰痛は関係ないのかな?と考えられます。かつて(今でも言う先生はいらっしゃいますが)、
椎間板の変形によって腰痛が起こると考えられていました。
例えば腰が痛いと病院に行き、そこで様々な画像検査をしたところ椎間板ヘルニアが確認された為、
医者から椎間板ヘルニアによる腰痛と言われることがあると思います。実際にヘルニアになり足に痺れがあったりすると椎間板ヘルニアによるものと考えられますが、
ここで面白いデータがあります。
まったく腰に痛みがない人の画像診断の結果です。(Boos et al. 1995)
よく、ぎっくり腰になって病院へ行き、画像診断をしてもらうとその多くが腰椎椎間板ヘルニアと診断されたという話がありますが、 このデータを見ると当然のような気がします。たまたま何らかの要因でぎっくり腰になっても 、画像を撮ってもらうと腰痛を訴えていない8割の健常な人にもヘルニアの所見がみられるのですから…
ということは…
先生 「あ〜、ヘルニアですね。手術でとっちゃえば痛みもでなくなりますよ」
このように言えないかもしれないのです。
なぜならヘルニアによって腰が痛くなったのか、以前からヘルニアはあったものの別の原因により腰が痛くなって病院に行き、 画像をとったらヘルニアだったのかは分からないのです。
この違いは大きいです。いらない手術をして、しかも痛みがとれないかもしれないのです。
ヨーロッパで2004年に出された腰痛治療のガイドラインでは、よほど重度の病気があるような腰痛でない限り、 むやみに画像をとってはいけないと提唱されています。
近年では心理的な面が腰痛に影響するとされており、ヘルニアの画像をみせつけられると不安になり余計に症状を悪化させてしまうかもしれないのです。
このように実は原因がよく分かっていない腰痛は非常に多いのです。
原因がよく分からない腰痛のことを最近では非特異的腰痛症(non-specific low back pain)と呼んでおり、 急性腰痛(ぎっくり腰のような)で外来を受診した実にその85%がこの非特異的腰痛症である と報告されています(Koes et al. 2007)。
腰痛と職業
腰痛というと、やはり腰に負担がかかる職種の方々に多いという印象があると思います。
実際に腰に負担がかかる作業をした後に腰が痛くなったという経験がある方は多くいらっしゃると思います。
では実際にはどのような研究結果があるのでしょうか?
1979年の調査の結果を示します。(整形外科MOOK)
肉体労働者よりも農園・造園業者よりも、無職の人に多いという結果になっています。このことからも、
職種によって腰痛が増えるというより別の要因が腰痛には関係していると伺えます。
また、1997年に発表されたSavage RA et al.の報告では自動車工場・救急隊員・事務職・病院・清掃業・ビール工場で勤務している149名を対象に1年間のMRI画像検査と
腰痛発症を追跡調査を行ったところ、腰痛とMRIの画像診断、職業との間に関連はなかったとしています。
つまり、経験的に腰に負担がかかりやすい職業の人は腰痛を発症しやすいと思われがちですが、
実際にデータを元に比較してみると、あまり関係がないと考えられるわけです。
腰痛の原因
それでは腰痛の発症要因とは何でしょうか?調べてみたところ、「腰痛に関する全国調査」が2003年に行われていました。
この調査でも医者から言われた診断名の1位は「よくわからない」でした。2位は腰痛症です。
この調査結果に関して、個人的に疑問点がいくつかあったので全てに関しては触れませんが、面白い結果としては腰痛の発症因子に
家族歴があったことです。しかも家族に腰痛既往者がいない人と比較し1.65倍の腰痛発症率という結果が出ていました。
類似した研究では、一卵性双生児を対象者にした研究があります(Battie MC et al. 1995)。この結果では椎間板変性の要因において、
仕事やレジャーによる身体的負担、車の運転、喫煙習慣よりも強い影響が遺伝であるとしています。
また、理化学研究所が行った2007年の研究では、椎間板ヘルニアを発症しやすい遺伝子のタイプが存在すると報告しています。
しかし!前述の通り、椎間板変性やヘルニアの有無が腰痛と関わっていないという可能性を述べた報告があるわけなので、
腰痛という症状と遺伝的な関係があるかどうかは結局のところよくわかっていないのです。
腰痛とストレス
そのような中、2004年にヨーロッパで作られた腰痛診療についてのガイドラインでは心理的・社会的な影響が強く腰痛に関係していると
考えられています。イエローフラッグとしてガイドライン中には注意しなければいけないとなっています。
腰痛(病名ではなく腰が痛くなること)の原因が心理的・社会的な影響が大きいとなれば、納得できるデータが増えます。
例えば腰痛患者の数の推移に関するデータです(厚生統計協会:国民衛生の動向・厚生の指標1987-2005)。
医学は日々発展していき、治る病気は増えているはず。ならば腰痛患者数は減少しているはずなのに、
この結果を見ると腰痛患者は増えています。
現在腰痛に関する根本的な原因が解明されていないのでしょうがないといえばそれまでなのですが、近年増加しているものの一つにストレスが挙げられると思います。
心理的・社会的なものが腰痛に影響しているのであればうなずける結果ではないでしょうか。
また、先ほどの職業別腰痛罹患率のデータにおいて無職の人に多く腰痛患者がいることも説明がつきそうです。
通常、心理的に安定しない状況に置かれた場合心理的ストレスがかかってしまいます。心理的ストレスがかかると自律神経のバランスが乱れ、
交感神経優位になってしまう為に、筋は硬直し、血行は悪くなると言われています。
このようなことが、腰痛発症に影響しているのではないかと考えられます。
ヨーロッパの腰痛診療についてのガイドラインではこのストレスとなる因子を上手く取り除いていくことが、腰痛の改善につながるとしています。
腰痛と予防(力学的な負荷に対する)
ここまで見てきたところで、腰痛の根本的な原因はよく分からないということが分かりました。
後半ではストレスが腰痛を引き起こす可能性が高いと示唆されてきましたが、
ぎっくり腰のような急性腰痛が起きる場面というのは往々にして腰に負担がかかったときなのです。
つまり心理的な影響ももちろん腰痛に関して影響はあると考えられますが、
力学的・機械的な負荷に対してどのように対処していかなければいけないかも重要であると考えられます。
以前より腰痛対策のトレーニングは主にシットアップのような腹筋運動を用いた、表層面にある大きな筋(グローバル筋)
を鍛えるトレーニングが多く行われていました。しかし、近年ではもっとより深層部にある小さな筋(ローカル筋)
の働きが重要であるのではないかとの報告がされはじめています。
←
ローカル筋
グローバル筋
のイメージ図
Bergmarkによるとグローバル筋とローカル筋は次のように分類されています。
ローカル筋 | グローバル筋 | |
横突間筋 | 胸最長筋の胸部 | |
棘間筋 | 腰腸肋筋の胸部 | |
多裂筋 | 腰方形筋の外側線維 | |
胸最長筋の腰部 | 腹直筋 | |
腰腸肋筋の腰部 | 外腹斜筋 | |
腰方形筋の内側線維 | 内腹斜筋 | |
腹横筋 | ||
内腹斜筋(胸腰筋膜付着線維) |
このローカル筋を鍛える事によって、腰痛を予防・改善することができるといわれ始めています。
トレーニング(エクササイズ)方法を少し紹介しています
⇒【腰痛】腰痛予防トレーニング〜腰に優しいトレーニング〜の紹介【布団】
腰痛予防とローカル筋
なぜローカル筋を鍛える事によって、腰痛を予防できるのか。このように言われ始めた理由を研究結果から見て行きたいと思います。
まず、腰痛になる原因として腹筋群と背筋群による脊柱の安定性が弱くなってしまい、大きな負荷が腰部の筋肉にかかるために、
腰の筋肉が疲労して血流も悪くなり、コリやハリと同時に痛みが出現すると考えられていました。そのために、腹筋運動(シットアップなどの)
を用いて筋力強化することにより腰痛を予防出来ると考えられていました。
腰痛症患者の体幹筋力は健常者と比べて低下すると言われています(Hasue et al., 1980; Beimborn & Morrissey, 1988)。
また、腰痛症患者の体幹筋断面積は健常人に比して低値を示すことから、筋肉が萎縮していることが示唆されています
(Cooper et al. 1992, Hides et al. 1994)。腰痛症患者の体幹筋力が低下している機序を病態別に検討した結果、
慢性腰痛症では腹直筋、大腰筋、多裂筋などが同程度に萎縮していることが明らかになっています(Cooper
et al. 1992)。一方、急性腰痛症では痛みがある筋肉が萎縮していることが明らかになっています(李ら, 1994)。
腰部の筋肉に余計な負荷を与えない為には、脊椎が安定しておく必要があります。脊椎の安定には骨や靭帯によるもの、
神経による筋肉への働きかけ、筋力などの問題が有ります。
特に腹横筋の活動に関して現在注目が集まっています。
生体力学モデル(いわゆるコンピュータ上での研究)を用いた研究では腰痛患者では体幹の深部筋群に機能異常がある可能性を示し、
脊椎安定性においてローカル筋の重要性が示唆されています(cholewicki et al. 1996)。腰痛症患者では健常人と比較し腹横筋の萎縮が見られ、
代償的にグローバル筋が発達しているという報告もあります(村上. 2011)。
腹横筋は腹腔内圧上昇に最も効率的に作用する筋(De Troyer et al. 1990)であることは知られており、脊柱を安定させてくれます。
健常人であれば、上肢・下肢のいかなる運動方向に関係なく脊柱の安定の為に腹横筋が最も早く収縮する筋とされています(Hodges
& Richardson. 1997)。しかし、腰痛患者においてはそうはいかず、主動作筋の活動開始後に腹横筋は活動すると報告されています(Hodges
et al. 1996)。つまり腰痛症患者は、脊椎の安定がされていない状態で大きく脊椎を動かしてしまうので、
その分脊椎や腰周辺の筋肉にかかる負担は大きくくなると考えられるのです。
そして、この腹横筋を選択的に収縮させることができるドローインという運動を指導し、トレーニングしてもらったところ、
腰痛患者において主観的に腰痛が軽減したという報告もされています(杉本.
2010)。
腹横筋のトレーニングも含め、腰痛対策の トレーニング方法を少し紹介しています
⇒【腰痛】腰痛予防トレーニング〜腰に優しいトレーニング〜の紹介【布団】
ストレスや心理的な疲れも睡眠が重要です。腰部の筋肉にかかる一日の疲れをとるのも睡眠です。
腰に負担のかかりにくい腰痛対策のお布団はこちら
ヨーロッパのガイドラインには、腰痛だからと気にせず日常生活を行うことが
一番良いと書いてあります。
人間には治癒能力があり、しっかりと睡眠をとることによって大抵の怪我は治ります。
そのためにも寝具選びは質にこだわって、腰痛を気にするのであれば腰痛対策がしっかりできた、
腰に楽な寝具を選択し、しっかりと熟睡していただきたいと思います。